2022年頃~2025年にかけて日本国内のニジマス価格が短期間で上昇し続けています。なぜこんな事になっているかをこの記事で解説しています。ぜひ皆さんとレギュラーニジマスの価格上昇についての情報を共有していきたいと思います。
日本国内のニジマスの価格上昇の要因
日本国内の管理釣り場向けのニジマス・レギュラーサイズ価格が上昇している理由は①ペレット(餌)価格の上昇。②小型鱒の生産縮小による鱒の取り合い、③天候不順による育成阻害・歩留まり低下などが挙げられます。
世界的な養殖需要・国際取引での飼料価格高騰
世界の養殖生産量は年々増加している
①【世界の養殖業の推移】
世界規模で見ると、養殖業の生産量は 2000年以降急速に伸びています。例えば、世界の養殖業の生産量は2000年時点で約4,301万トンだったのが、2018年には11,451万トンまで達しています。
②【中国養殖業の飛躍】
特に中国の養殖生産量は飛躍的に増加しています。1960年代には96万トン程度からスタートしており、2000年代には数千万トンレベルに成長しています。最新の2024年の報告では中国の海面+淡水をあわせた養殖生産量が約6,060万トン という数字が報じられています。この数値は世界の養殖生産量のかなりのシェアを占めており、たとえば2020年時点で中国が世界の養殖生産量の約57%を占めているというデータもあります。
世界の漁業・養殖業生産量の推移
魚粉の主要原料禁漁の影響と調達価格の上昇
【魚粉の主要原料が漁獲制限へ】
養殖飼料の主要原料となる魚粉価格が上昇しています。例えば2023年6月には世界有数の水揚げ量を誇るペルー沖海域において、主要原料となる魚が未成魚の多さから漁獲枠が設定されたにもかかわらず自主禁漁が発表されました。これにより魚粉価格が高騰しました。また魚粉価格上昇の影響で、配合飼料の価格にも波及しています。
【他国との養殖飼料獲得競争】
こういった減少する養殖資源をめぐり、中国をはじめとする他国との魚粉の獲得競争に陥っています。また為替では円安傾向が続く中で日本の調達価格は上昇傾向にあります。
魚粉価格の推移
その他・国内政策の影響
【トラックドライバー2024年問題による飼料運賃の見直し】
「トラックドライバー2024年問題」とは2024年4月から施行された働き方改革関連法によって、トラックドライバーの時間外労働(残業)の上限規制が適用されるようになりました。これににより養殖飼料配送の価格改定や、一部の配送がアウトソーシング化された事に伴い送料分が上乗せされるようになりました。
日本国内の食用向けトラウトサーモン需要の急増と養魚場の生産方針転換
ウクライナ問題と円安により輸入サーモンに逆風。日本国内のサーモン需要に変化
ウクライナ問題により空輸されるノルウェイ産サーモンの輸送費が上昇した事や、為替が円安傾向のため輸入品が割高になった事。また同時期に全国各地でご当地サーモンが開発された事で、国内の多様な育成方法で生産された食用の大型トラウトサーモンが認識されはじめ、国産トラウトサーモンにも注目が集まるようになりました。
サーモン
国内のニジマス養魚場が次々に食用大型トラウトサーモン生産にシフト。レギュラー鱒の生産は大幅縮小へ。
食用大型トラウトサーモンの需要が増えた事で、ニジマス養魚場もレギュラーニジマスを作るよりも割の良い食用大型トラウトサーモン生産へと舵を切り始めるようになりました。東証プライム企業などが共同出資するなど市場規模も拡大・成熟された事で既存の国内ニジマス養殖場の多くが食用大型トラウトサーモン中心への生産体制に切り替えるようになりました。
例として静岡県内の大規模養殖業者はレギュラーサイズニジマスを、すべて食用大型トラウトサーモン生産にシフトしました。これにより年間150~200トンものレギュラーサイズ鱒がいなくなる結果となりました。
※2025年現在、レギュラーニジマスを増産する方向に舵を切った養魚場も出始めています。ただし2026年のニジマス全体の生産量は減少の見込みです。
日本の環境変化
夏の高水温が悪影響。発眼率の低下・へい死の増加
トラウトサーモン養殖において「ニジマスの発眼率低下」が研究テーマにあがっています。この問題は現在完全には解決されず、解決の見通しも立っていません。
【飼育・採卵時の水温・環境温度の上昇が原因?】
例えば長野県水産試験場の報告では、親魚飼育水温・採卵日の水温・採卵日の気温のいずれもが高いほど発眼率が低くなるという統計的な負の相関が確認されています。
【集中豪雨orかんばつ。極端な降雨傾向が続く】
集中豪雨による水路詰まりや、かんばつによる井戸水低下による酸欠などで養殖場での魚のへい死事故が増えています。近年夏場の養魚場でのニジマスのへい死は多く報告されています。一般的にニジマスは水温24℃を超えると衰弱しだすと言われています。ここ数年日本国内の夏の高温が定着した事により夏時期に既存の中山間地の一部の養殖場では生産が出来なくなった養殖場も出はじめています。より高地、より奥地へと低水温条件を求めて移転も始まっています。
管理釣り場(エリアトラウト)への影響
短期間の魚価上昇で価格転嫁が避けられない状況に…
これらの国内外の事情が短期間に重なった事でレギュラーニジマスの価格は大きく上昇しました。これにより2023年頃から価格改定が頻繁に起こるようになったのは、上記解説の通りです。
【今後の見通し】
ルアー&フライ管理釣り場では持ち帰りレギュラー鱒の匹数の制限が考えられます。また鱒を持ち帰らない顧客の取り込みが増えていくと予測されます。また食用大型トラウトサーモン(ブランドサーモン)放流を前面に押し出してアピールする釣り場が増えると予測されています。
またファミリー向けニジマス釣堀では「時間釣り」が成立しにくい状況になると予測されます。
【釣券上昇による客離れは?】
外出自粛期間を経てアウトドア需要は大きく高まりをみせ、ピークを越えたといわれる2025年でも新規釣り場が出てくるなど依然として釣り場には人が行っている感はあります。しかしながら放流量と価格がマッチしているかの判断は、今後起こりえる問題となりそうです。
【トーナメントの必要性は?】
これはたびたび質問を頂きますが、当サイトでも『エリアトーナメント』という大会を通年で行っており管理釣り場ドットコムはトーナメントを擁護する立場にいます。レギュラーサイズ鱒が少なくなっている中で大会なんてやってる場合じゃないぞ!とお叱りを受ける事もありますが、先に結論だけ言ってしまいますと今まで通り月間で適切な数を行うのがベストであると考えています。この件はまた別の機会にまとめたいと思います。
日本国内の管理釣り場向けトラウトの価格が安定するには?
【持続可能な生産の仕組みを策定する】
世界的に養殖規模と需要は年々上昇していますが、現状では魚粉・魚油を飼料とした魚の置き換えでしかなく、いずれは生産の上限を迎える技術である。国際間で持続可能な養殖の仕組み作りが求められています。
【持続可能な代替餌の開発】
ニジマスの成長には高タンパクな餌が必要です。自然環境や国際動向に左右されずらい、新たな調達方法を複数つくることで、ニジマスの価格安定につながる事が見込めます。
サーモン養殖と餌
【エリアトラウト文化を次の世代につなぐために…】
管理釣り場ドットコムのはじまりのきっかけのひとつとしてバーブレスフックが普及する事により、より多くのアングラーが釣りの楽しみを共有する未来をつくる事をひとつの目的として掲げています。それは概ね達成されつつあると私たちは自負しています。
まずは原点にたちかえって正しいキャッチアンドリリースを行う。ひとりひとりの気遣いで、より長く遊ぶ環境を自分たちでつくっていく。そんな時代がめぐりめぐって再び訪れたような気がします。
特にエリアトラウトをはじめてたまたまこの釣りが好きになった若い方へ。釣場、釣り用品、養魚場の周辺だけで成り立っているわけではなく、案外奥行きも深いのです。より幅広い視点で研究や資源調達といった分野などでもエリアトラウトに大きく関われますよ、という事を覚えておいていただければいいなと思いつつ文を締めたいと思います。
補足事項
1)世界の養殖業は年々増加の一途をたどるが、養殖の拡大により、環境負荷(水質・生態系・水利用)や養殖場の規模拡大に起因するリスクが指摘されています。